第三者のためにする契約による不動産売買の登記
目次
1.不動産売買における「第三者のためにする契約」とは
「第三者のためにする契約」とは、契約当事者が、自己の名において結んだ契約によって、直接第三者に権利を取得させる契約を言います(民法537Ⅰ)。
不動産の売買では、不動産会社であるBが、不動産の所有者であるAと契約し、その所有権を第三者Cに直接取得させる方法として、ワンルームマンションや山林等を対象として活用されています。
「第三者のためにする契約」による不動産売買のお手続は、次のとおり、二つの契約と、それぞれの代金決済の、大きく四つの場面に分けることができます。
(1)AB間の契約(不動産の所有者である売主Aと、買主Bとの契約) (2)AB間の決済(BからAへの代金の支払い) (3)BC間の契約(Bと、Aから直接所有権を取得することとなるCとの契約) (4)BC間の決済(CからBへの代金の支払い)
(1)AB間の契約
AB間の契約は、不動産の所有者で売主であるAと、買主Bとの間の不動産売買契約に、「第三者のためにする契約」とするための特約が付されたものとなるのが通常です。
したがって、AB間で締結する契約書には、第三者のためにする契約とするための正確な文言の特約の記載がなければなりません。
この第三者のためにする契約とするための特約の文言が不十分なものであれば、Aから直接Cへの所有権移転登記の申請ができなくなりますので、契約の締結前に十分に検討する必要があります。
また、第三者のためにする契約の効力は、CからAへの受益の意思表示(CがAから直接所有権を取得する旨の意思表示)がなされた時に生じることとされていますが、実務上は、CがAに対し意思表示を伝える場面は設定されないことが多いため、Cの受益の意思表示を受領する権限を、AからBに委任する旨も特約に加えておくのが通常です。
以上のようなAB間の特約の文言については、登記手続をご依頼いただける場合には、当事務所でご確認及びご提案を行なっております。
(2)AB間の決済
(1)AB間の契約締結後に、BからAへの代金の支払いと、それと引き換えにAから権利書等の登記手続に必要な一切の書類の交付を受けるための決済日を設けます。
通常はABと司法書士が立ち合い、司法書士が必要な書類がすべて揃っているかを確認し、BからAに代金の支払いを行ないます。
Aへの入金が確認できたら、司法書士はAから登記手続に必要な一切の書類を預かります。
Aが決済日に出席しない場合には、決済日の前までに、郵送などにより登記手続きに必要な一切の書類をAから司法書士が預かり、決済日にBからAに代金の支払いを行います。
(3)BC間の契約
BC間の契約は、(1)AB間の契約に基づき、BがCを「第三者のためにする契約における第三者」に指定する、すなわち、BがCを対象不動産の所有権をAから直接取得する者として指定することを内容とする契約となります。
この契約は、BがCを本件不動産の所有権を直接取得する者に指定し、それに対する対価をCからBに支払う内容であることから、実質は不動産の売買に相当するものと言えます。
そのため、通常は、BC間の契約では、不動産売買契約というタイトルの契約書が使用されますが、この契約書には、不動産の所有者であるAから直接Cに所有権が移転することとなる旨の正確な文言の特約の記載がなければなりません。
この特約の文言が不十分なものであれば、Aから直接Cへの所有権移転登記の申請ができなくなりますので、契約の締結前に十分に検討する必要があります。
以上のようなBC間の特約の文言についても、登記手続をご依頼いただける場合には、当事務所でご確認及びご提案を行なっております。
(4)BC間の決済
BC間の契約締結後に、登記手続きに必要となるBCの書類の交付を受け、かつ、CからBへの代金の支払いをするための決済日を設けます。
通常はBCと司法書士が立ち合い、司法書士が、BCの登記手続きに必要な一切の書類が揃っていることを確認し、CからBに代金の支払いを行ないます。
この際に、CからBに書面を交付する等の方法により、Cは受益の意思表示を行ないます。
Bへの入金が確認できたら、司法書士はBCから登記手続に必要な一切の書類を預かります。
BやCが決済日に出席しない場合には、決済日の前までに、郵送などにより登記手続きに必要な一切の書類をそれぞれから司法書士が預かり、決済日にCからBに代金の支払いを行います。
以上により、対象不動産の所有権は、AからCへ直接移転することとなります。
BC間の決済後、同日中に、司法書士は、AからCへの所有権移転登記の申請を行ないます。
2.第三者のためにする契約による不動産売買を進める順序
「第三者のためにする契約」による不動産売買のお手続では、上記(1)から(4)の工程は、通常は、次の二通りの順番で進められています。
・(1)AB間の契約→(2)AB間の決済→(3)BC間の契約→(4)BC間の決済・(1)AB間の契約→(3)BC間の契約→(2)AB間の決済→(4)BC間の決済
各工程の日程は別々とすることも、すべて同日とすることも可能です。
すなわち、(2)AB間の決済と、(4)BC間の決済の間に日にちを開けることも可能です。この間は、所有権者はAのままであり、登記簿上の所有者名義もAのままであることから、「所有権留保」や「登記留保」と呼ばれます。
ただし、所有権留保・登記留保の間は、後述するデメリットのとおり、Bにとって一定のリスクがあることには注意が必要です。
また、(2)AB間の決済時に司法書士が預かるAの印鑑証明書は登記申請の際の添付書類となりますが、登記申請日において発行日から3か月以内のものである必要があることから、(2)AB間の決済と、(4)BC間の決済の間に開けることができる日にちは、Aの印鑑証明書の発行日による制限を受け、最大でも3か月程度となります(Aが新しい印鑑証明書の差し替えに応じる場合を除きます)。
そのため、(4)BC間の決済の日程を、Aの印鑑証明書の有効期限内に設定できない等の場合には、BはB自身を、「第三者のためにする契約の第三者」、すわなち、「Aから直接所有権を取得する者」として指定して対応することになります。この場合、司法書士はAからBへの所有権移転登記を申請します。
3.第三者のためにする契約による不動産売買のメリットとデメリット
3-1.メリット
第三者のためにする契約による場合、AからCに直接所有権が移転することとなるため、A→B→Cと順次所有権が移転する通常の売買契約の場合と比べ、Bは、B名義とするための登記費用を節約することができる利点があります。
同様に、Bは所有権を取得しないことから、不動産取得税の課税も受けません。
このように、Bのコストが削減されることにより、AB間の契約において、BはAに、より高い価格を提示でき(Aはより高い価格で売却できる)、BC間の契約においては、BはCに、より安い価格を提示できる(Cはより安い価格で購入できる)、というメリットがあると、一般的に説明されます。
3-2.デメリット
(2)AB間の決済と、(4)BC間の決済とを別の日とする場合、その期間が開くほど、Bにとっては次のようなリスクが高まるというデメリットがあります。
・Aが税金の滞納等をした場合に、対象不動産に差押の登記が入ってしまう・Aが別の方に対象不動産を売却して所有権移転登記がなされてしまう・Aが対象不動産を担保にお金を借り、抵当権設定登記等がなされてしまう
このデメリットは、Aへの代金支払いが終わった後も所有権者がAのままであり、登記簿上の所有者(所有権登記名義人)がAのままであることに起因するものですから、(2)AB間の決済と(4)BC間の決済を同日に行なうことによって、通常の不動産売買契約の場合と同程度まで、リスクを抑えることができます。
また、(2)AB間の決済後、所有権留保・登記留保により、所有権移転登記が申請されるまでの間に新年を迎えた場合、Aにとっては、固定資産税・都市計画税が課税されるリスクがあるというデメリットがあります。これは、それらの税が、1月1日時点の登記簿上の所有者に課税される取り扱いであるためです。
このデメリットは、(1)AB間の契約において、年末までに所有権移転登記の申請を行なう(年末までに第三者CまたはB自身を指定する)等を取り決めておくことにより、防ぐことができます。
3-3.その他のご注意事項
Cが金融機関からの融資を受け、対象不動産に抵当権の設定を予定している場合、融資をする金融機関によっては、Cが、第三者のためにする契約により所有権者から直接所有権を取得することを認めていない場合があります。
そのため、このような場合には、BはB自身を、「第三者のためにする契約の第三者」、すわなち、「Aから直接所有権を取得する者」として指定するという対応をする必要が生じます。
4.お見積依頼・お問い合わせ
第三者のためにする契約を用いた不動産売買による登記手続のご依頼をご検討されておられる皆さまからのお問い合わせをお待ちしております。
お電話、メール、お問い合わせ用ページの中から、ご都合のよい方法でお気軽にご連絡くださればと思います。
お見積をご希望される場合は、売買契約書、登記簿謄本(登記事項証明書)、本年度の固定資産評価証明書をご用意ください。
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