コンビニ発行の印鑑証明書等を、登記手続に使用できますか?

質問
不動産を売却することになりました。
登記手続を担当する司法書士から、「印鑑証明書は、役所発行のものを用意して欲しい」と言われましたが、コンビニエンスストアで発行される印鑑証明書は、登記手続には使用できないのでしょうか?

回答:司法書士たかはし
コンビニ発行の印鑑証明書も登記手続に使用できますが、当事務所においても、現時点では、役所発行のものをご用意していただくようお願いすることがございます。

その理由につきましては、ぜひ以下をご覧ください。

ただし、コンビニ発行の証明書には大きな利点もありますので、有効に活用していけたらと考えております。 


1.コンビニで印鑑証明書等の証明書を取得できます

お住まいの地域により、マイナンバーカード等を利用することにより、コンビニエンスストアで住民票や印鑑証明書等の証明書を取得することができるようになってきました。

大変便利な制度ではありますが、不動産売買に際して必要となる印鑑証明書等については、登記手続を担当する司法書士から、「役所発行の証明書」の提出を要求されることがあります。

これは、コンビニ発行の証明書ならではの取り扱いの難しさがあるためです。

2.役所発行の証明書をご用意いただきたい理由

当事務所では、以下の理由から、不動産売買の決済時にお持ちいただく証明書としては、役所発行のものをご用意いただきたい旨お願いしていることころです。

2-1.証明書が通常のコピー用紙に印刷される

コンビニ発行の証明書は、コンビニに設置されているマルチコピー機により、通常のコピー用紙に印刷されます。

このため、コンビニ発行の証明書については、「証明書の原本」なのか、「証明書をコピーしたもの」なのかを、用紙の違いからは判断することができません。

2-2.原本でありながら「複写」の文字がはっきり見えてしまうものもある

コンビニ発行の証明書には、コピーによる偽造を防止するため、コピーした際に「複写」という文字(けん制文字)が浮かび上がるようになっています。

しかしながら、コンビニに設置されているコピー機には性能等に違いがあるためか、証明書原本でありながら、コピーされたもののように、「複写」の文字がはっきりと見えてしまっているものがあります。

このような証明書の場合には、それが「証明書の原本」なのか、「証明書をコピーしたもの」なのかを判断することは困難です。

2-3.スクランブル画像は、コピーでも解除できてしまう

コンビニ発行の証明書の裏面には、おもて面を暗号処理した特殊な画像(「スクランブル画像」)が印刷されます。

このスクランブル画像を一定の設定でスキャナで読み取り、パソコンから専用サイトに送信すると、暗号が解除されて、おもて面の内容がモニターに表示される仕組みです。

このスクランブル画像部分を含めて証明書を偽造することは大変困難だと思われますので、偽造防止に非常に有効な仕組みと言えます。

しかし、この仕組みはあくまで偽造防止のためのものですので、コンビニ発行の証明書をコピーしたものであっても、上記の手続を経れば暗号を解除することができてしまいます。

すなわち、スクランブル画像の仕組みは、その書面が「証明書の原本」なのか、「証明書をコピーしたもの」なのかを判断するためのものではないので、この判断のためには利用することができません。

また、この仕組みを利用するためには、自動原稿送り装置付きのスキャナとパソコンとインターネット環境が必要となりますが、不動産売買の決済に、そのすべての機器をお持ちすることは、現時点では、容易ではないものと考えております。

2-4.偽造防止検出画像には、利用しにくい側面も

コンビニ発行の証明書の裏面には、特殊なインクにより「偽造防止検出画像」が印刷されます。

この画像に一定の波長の赤外線を当てて撮影すると、潜在画像(目視で確認できる画像の裏に隠れている画像)を、モニター上で確認することができます。

この「偽造防止検出画像」部分を含めて証明書を偽造することは大変困難だと思われますので、偽造防止のための大変素晴らしい仕組みであると言えます。

また、証明書をコピーしたとしても「偽造防止検出画像」の仕組みはコピーされませんので、その書面が「証明書の原本」なのか、「証明書をコピーしたもの」なのかの判断にも有効です。

しかし、残念なことに、この仕組みを利用するために必要な専用の器具が、現在のところ存在しないのです。一部のドライブレコーダーなど、他の用途のために販売されているものの中に、この仕組みの利用にも使用できるものが、わずかに存在しているだけなのです。

そのためもあってか、偽造防止検出画像の確認は繊細なもので、まわりの明るさや赤外線の出力などを微調整しながら撮影し確認しなければならないため、不動産売買の決済の場では利用しにくいという側面があるのです。

3.コンビニ発行の証明書でも差し支えない場合

上記2のような問題がなければ、コンビニ発行の証明書をご用意いただいても差し支えない場合がございます。具体的には次のような場合です。

3-1.不動産売買の決済日よりも前に証明書を預からせていただける場合

不動産売買の決済日よりも前に証明書を当方にて預からせていただけるのであれば、コンビニ発行の証明書をご用意いただいても差し支えありません。

不動産売買の決済日までに、事務所内で「偽造防止検出画像」等の確認を行なうことができるためです。

3-2.不動産売買の決済日に、司法書士の面前で証明書を取得していただける場合

不動産売買の決済日に、決済場所のお近くのコンビニエンスストアへ当方とともに行き、当方の面前で証明書を取得していただけるのであれば、コンビニ発行の証明書でも差し支えありません。

ただし、不動産売買の手続においては、安全な決済を行なうために、決済日よりも前に住民票や印鑑証明書を取得していただき、内容を確認したいと考えておりますので、この方法は望ましいものではないと考えておりますことを申し添えます。

4.コンビニ発行の証明書の今後の取り扱いについて

先日、大手不動産会社が不動産売買の詐欺被害にあった旨の報道がなされましたが、この事件では、売主の印鑑証明書が偽造されていた、との情報もあります。

上述のとおり、現時点においては、不動産売買の決済の際には使用しにくい側面のあるコンビニ発行の証明書ですが、強力な偽造防止の仕組みが施されていることには、大きな利用価値があります。これは、役所発行の証明書にはない利点です(一部の役所の発行する証明書には、温度で色が変わる箇所があるなどの偽造防止措置が施されているものもあります)。

当事務所も含め、司法書士は、コンビニ発行の証明書の「利用しにくさ」にばかり目を奪われ、その利点を十分に活用できずにいると言えるかもしれません。

そこで、当事務所では、コンビニ発行の証明書にある大きな利点を活用できるよう、準備を進めていきたいと考えております。

ただし、繰り返しになりますが、当面は上記のような理由から、役所発行の証明書のご手配をお願いせざるを得ない場合がございますので、何とぞご理解・ご協力のほど、よろしくお願い致します。