欲しくない土地、放棄したい土地

質問
亡き父の遺産の一部に、原野、山林など、相続したくない土地があります。

1.必要な財産だけ相続し、不要な財産は相続しないとすることはできますか?
2.相続した不要な土地の所有権を放棄することはできますか?

回答:司法書士たかはし
1.遺産の一部を相続し、残りを相続しない、とすること(遺産の一部についての相続放棄)はできません。

2.相続放棄として相続財産すべてを放棄する場合や、共有不動産の持分を放棄する場合を除き、現時点では、単独で所有する原野、山林などの所有権の放棄が認められる可能性は非常に低いものと考えられます。

現時点では以上のとおりとなりますが、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する制度の創設が具体的に検討され始めており、将来、要件を満たした土地については放棄できるようになるものと考えられます。

※この記事の当初の公開時より状況の変化がございましたので、追記等致しました。


1.不要な土地と所有権の放棄

利用価値を見い出せず、資産価値が低いため売却も困難で、それにもかかわらず、管理や固定資産税の負担を負わなければならない・・・このような土地を、相続などにより取得することになる場合があります。

そこで今回は、このような土地を相続したくない、または、このような土地を相続その他の原因で取得したので所有権を放棄したい、というご希望をお持ちのお客さまからよくあるご相談についてご説明したいと思います。

2.遺産の一部だけを相続したくない

遺産(相続財産)の中に、原野や山林など、相続したくない土地が含まれていた場合、それらだけを相続しない、とすることはできるでしょうか?

相続が発生した場合、相続人の取りうる選択肢は次の3つとなります(民法915Ⅰ)。

 (1)単純承認:被相続人の権利義務すべてを受け継ぐ方法
 (2)相続放棄:被相続人の権利義務すべてを受け継がない方法
 (3)限定承認:相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ方法

つまり、相続放棄をした場合には、相続したくない土地を受け継がないで済むことにはなりますが、必要なものも含めてすべての遺産を受け継ぐことができなくなりますので、「遺産の一部を相続し、残りの不要な遺産は相続しない」、というように、相続放棄を選択的に行なうことはできないのです。

3.土地の所有権を放棄したい

それでは、原野や山林など不要な土地を相続その他の原因により取得した場合に、それらの土地の所有権を放棄してしまうことができるでしょうか?

3-1.共有の土地の場合

不動産を複数の方で共有している場合、共有者の一人が、その共有持分を放棄することは可能です(民法255)。放棄した共有持分は、他の共有者に帰属することになります。

共有持分を放棄したことを第三者に主張するためには、その旨の登記を行なう必要があります。この登記手続は、放棄をした方と、他の共有者との共同で申請することとなります。

3-2.単独所有の土地の場合

単独所有の土地について所有権の放棄が可能かどうかは、民法に規定がないためはっきりせず、民法の解釈にゆだねられています。放棄が可能であれば、その土地の所有権は、国庫に帰属することになります(民法239Ⅱ)。

土地の所有権を放棄したことを第三者に主張するためには、その旨の登記を行なう必要があります。この登記手続は、放棄をした方と、国との共同で申請することになるものと考えられますが、この登記手続について国に協力を求めるには、裁判所に訴えを提起しなければならないものと考えられます。

最近の裁判例には、山林である土地の所有権を放棄したことを原因として国への所有権移転登記手続を求めたところ、この土地所有権の放棄が権利濫用にあたるとして否定された、という事例があります。

この裁判例によりますと、資産価値が低い単独所有の土地の所有権を放棄することは、原則としてできないと判断されるものと考えられます。

4.今後の動向に注目を

原野や山林などの土地は、適切な管理がなされず、相続した場合であっても相続登記がなされないまま放置されがちです。

さらに相続が繰り返されることで所有者が不明な土地が増え、近時、社会問題として認識されるようになってきました。

そのため、将来、不動産の所有権を放棄できるような制度や仕組みが整備される時が来るかもしれません。今後の動向に注意し、必要に応じて、こちらのページに追記して参りたいと思います。

【2018/05/30追記】

2018年5月29日付朝日新聞デジタルさんの記事によりますと、政府は、土地の所有権を放棄したいときに放棄できる制度の検討を始めた、とのこと。

防災上の必要性や、土地所有者が一定金額を納めることなどが要件として検討されるようです。

【2021/02/03追記】

2021年2月2日付NHK NEWS WEBさんの記事によりますと、「法制審議会の部会は、(中略)不要な土地を手放して国の帰属とすることができる制度の創設などを盛り込んだ要綱案をまとめました。(中略)法制審議会は来週開かれる総会で要綱を取りまとめ、法務大臣に答申することにしています。」とのこと。

また、法制審議会民法・不動産登記法部会第25回会議(令和3年1月26日開催)の議事録によりますと、国庫に帰属させることができる土地の要件として、建物が建てられていない、担保権等が設定されていない、土壌汚染されていない等が挙げられています。

リンク
・「所有者わからず放置の土地が増加 対策で登記義務化へ」(NHK NEWS WEB)

法制審議会民法・不動産登記法部会第25回会議(令和3年1月26日開催)

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また、原野や山林等の登記簿謄本や公図を取得されたい方は、こちらをご覧のうえ、ぜひご依頼ください。

住宅地図に掲載される場所であれば、Google Map上でおおよその該当箇所をお探しすることもできます。衛星写真やストリートビューにより、その土地周辺の雰囲気が分かる場合もあり、おすすめできます。

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